『ヘタレで何が悪い!』
死に花
掲載:2009/6/2 20:55
その店の606番台の前に立っている男は、まだ夕方だというのに既に相当な額をいかれた敗者だった。
この日はその店一番のイベントデイ。
はやる気持ちを抑えながら抽選に参加し無事に狙い台も確保できたはずだった。
わずかその数時間後。
男は死んだ魚のような目で店内を徘徊する事態を迎えた。
多くは語らない。
ただ男は負けたのだ。
男は死に場所を求めていた。
そんな男の目に飛び込んできたのが606番台。
この店の606番はアイムジャグラー。
カウンター前の一番目に付く角台で、しかもイベント日は必ず最高設定が入る鉄板。
普段は常連が丸一日ぶん回しているのだが、何故か今日は空いている。
立ち止まってデータを確認するとその謎が解けた。
出すぎなのである。
4000回転でBIG28REG29。一粒の山が並んでおり、現在240回転。
男はこの期に及んでまだ迷っていた。
残り少ない現金をこの台に突っ込むかに。
一刻も早く一文無しになり【気持ちよく】帰って安酒を煽って眠りにつきたいはずなのに、まだわずかな可能性を捨てきれずにいた。
残金は5000円。ものの20分もあれば無くなる金だ。
決心し座席に手をかけた瞬間、下皿にタバコが投げ入れられた。
隣の605番で打っていた客だ。
出鼻をくじかれた男は一瞬イラっとした。
しかし、605番台のデータを見るとすぐに同情の念にかられた。
3500回転B6R24。
見事なバケ死。
606番にうつった男の目も死んでいた。
男は何も言わずホールを後にした。
くしゃくしゃの5000円と人を慈しむ気持ちをポケットに詰めて。